東北地方を舞台にした少女二人の成長と創作の旅を描く是枝裕和監督の最新映画「ルックバック」が公開されている。藤本タツキ原作の同名漫画は、発行部数100万部超えという大ヒットを記録し、それに続くアニメ映画も成功を収めたが、この人気作の実写化に挑んだ是枝監督は、「音」を主役に据えたという特異な手法で注目を集めている。
是枝監督がコロナ禍の中、創作意欲に迷いを感じていた時期に偶然原作漫画に触れ、「これは映画化しなければ」と直感したという。藤本タツキが住む地を訪ね、彼の創作活動やインスピレーションについて深く探求し、「ペンを走らせる音」が漫画家として成長する二人の姿を象徴していることに気づいた。初めは不安定だったペンの動きも、共同作業を重ねるうちに調和し、創作者としての成長を見事に表現する。
是枝監督は、「セリフではなく、季節や時間の移ろいの中で主人公たちが漫画を描く姿を追う」という方針を立て、そのビジョンを撮影現場に伝えた。原作はフィクションであるものの、藤本タツキ自身の創作活動が色濃く反映されており、映画でもそのリスペクトを感じさせる。撮影は藤本の故郷である秋田県を中心に行われ、35ミリフィルムで捉えられた美しい自然風景が映画全体に彩りを添えている。さらに、藤本の実際に通った文房具店などもロケ地として使用され、「生まれ育った時代の風景をすべて映画に反映しよう」という姿勢が徹底された。
物語は、小学生から少しずつ成長していく藤野と京本という二人の主人公を中心に展開する。子供時代の彼女たちを七瀬ふうりと岡田六花、成長した後の姿を出口夏希と蒔田彩珠が演じている。原作では子供二人だけで漫画を完成させたが、本作では「大人の目線」も加えられ、「大人と子供」「家族」といったテーマに新たな深みを与えている。是枝監督はこれまで「親密さと距離感」を描くことに長けており、今作でもカメラの「まなざし」を通して担任の先生や母親、漫画編集者が見守る姿を表現することで物語の層を深めている。
この作品は第83回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、公式上映では12分間にわたり熱烈な拍手を浴びた。現地での報告では、「芸術監督アルベルト・バルベラに『この小さな作品に光を当ててくれてありがとう』と感謝した際、彼から返ってきた言葉が心温まった」と述べ、その意義深い受容を語っている。是枝監督の「ルックバック」は、音を通じて静かに物語を紡ぎ出し、観客の心に深く響く作品となった。
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